全力は、シャッターを切る前からはじまっている
山本写真機店にフィルムを出してくれている、仕事の現場でフィルムを使い続けるフォトグラファーを紹介する連載企画「ヤマプリフォトグラファーズMAP」。第1回は、東京を拠点に雑誌やアーティスト写真の撮影を手がけるフォトグラファー、細谷謙介さん。
実際の仕事写真を眺めながら、撮影の現場と写真に対する考え方について話を聞きました。
はじめに
現在はどんなジャンルの撮影を中心に?
最近の仕事で言うと、雑誌やWEBメディア、アーティスト写真などです。プロダクトやグッズの撮影をしたりもします。依頼があればライブ撮影もやります。
どういう経緯で写真の仕事を?
今、普段は映画関係の会社で仕事をしているのですが、それ以前のキャリアとしてはデザイン系の仕事をしている期間が長かったんですね。90年代〜00年代の雑誌文化の中で育ってきて、写真が好きだったりグラフィックデザインに興味があったので、デザイン会社に就職しました。そこでは紙媒体もWEBもやっていたので、自然と仕事の中で写真に触れていました。撮影のディレクションもやっていたので、フォトグラファーに仕事を依頼する側でもありました。
なので、プロジェクトには目的やゴールのイメージがあるということを心得ているつもりです。個人で写真撮影の仕事を受ける時は、ディレクション経験を活かしながら自分なりの強みを作っている感じですね。
Case 1|生活の設計(ミュージシャン)
兄弟バンド「生活の設計」のアーティスト写真、Tシャツのディレクション、そのイメージ撮影まで。アルバムのリリースに合わせて2025年5月と2026年1月の2度にわたり撮影。

これはどんなお仕事だったんですか?
「生活の設計」は兄弟でやっているバンドなんですけど、兄の大塚くんが友人なんです。彼と仲良くなって話をしていた時に「いつかアーティスト写真の撮影をお願いしたい」と言ってくれていて、しばらくしたら本当にオファーをくれたんですね。ちょうど彼らが新しいアルバムを作るタイミングで。
デモの段階で曲を聴かせてもらったら、歌詞に「車は親父のお下がりでいいから」っていうフレーズがあったんです。その歌詞からビジュアルのイメージを膨らませました。彼らは90年代の音楽からも影響を受けているところがあるので、東京の街の中で、ちょっと古い車が出てくるのが似合うんじゃないかなと。それで「こういう車持ってる友達いない?」と大塚くんに聞いたら、彼らの友達がぴったりな車を持っていたんです。その友達に車に乗ってきてもらって、彼らにとって馴染みがある駒沢公園の近くで撮影しました。友達だけで集まって撮る感じだったので楽しかったですね
その後、Tシャツのディレクションにつながっていく
アーティスト写真を撮った後、ライブで販売するTシャツ制作のディレクションを依頼してもらいました。Tシャツは写真を使って2種類作ったんですけど、1つは5月に撮ったアザーカットから。もう1つは歌詞に出てくる「ファミレスのポテト」というフレーズに合わせて新たに撮りました。ライブ前にTシャツの宣伝もすることになって、そのための写真も含めて一連のビジュアルはほとんど撮影しています。
イメージ撮影もディレクションから?
そうですね。アーティスト写真で撮った車がすごく良かったので、また車をお願いしました。今度は車の持ち主の家まで行って、朝9時ぐらいに駐車場から出してもらって撮りました。普段は朝の時間帯はあんまり撮らないんですけど。その時の気分で、PENTAX67で撮りました。
そのネガは僕も覚えていて、光が強くて影が青かった記憶があります。
そうなんですよ。快晴で朝だから光がパキッと強くて、どうかなーと思ったんですけど。運転席のカットは目で見て「綺麗だな」って思ったので良かったんですけど、他のカットは撮った時はそこまで手応えがなくてちょっと不安だったんですよね。でも、上がってきたらすごく良かったです。色温度が高くて青く転んでいて、それがいい感じにハマっていました。
そういうこともあるんですね。
これはフィルムの好きなところで、自分のイメージよりさらに良く上がってくることが結構あります。デジタルで撮っていると、液晶を見て完成度のことを考えすぎちゃうんです。自分はあまり器用じゃないので、ちょっと雑念が入っちゃうんです。フィルムだとそれがないから集中できる気がします。デジタルだと頭で撮っている感じになっちゃうけど、フィルムの方が体で撮っている感じになれる。カメラと一体化できる感覚があります。
あと、完璧で整いすぎているというのはあまり好きじゃないんです。整いすぎていると窮屈に感じる。フィルムはうまく撮れていない時も含めていいなと思える。そういうところが人間っぽくて好きですね。
この一連の写真、全部好きでした。
これをきっかけに、2件続けて仕事が来たんですよ。「生活の設計のアー写が良かったから」って言ってもらって。そういう繋がりを大事にしてやっています。
Case 2|「私より先に丁寧に暮らすな」(上坂あゆ美 / 鵜飼ヨシキ)
歌人・エッセイストの上坂あゆ美さんと、僧侶の鵜飼秀徳さんによるポッドキャスト番組のプロモーション用アー写。Spotifyの年間プッシュポッドキャスターに選ばれたことをきっかけに撮影。京都・喫茶翡翠、台湾料理店・微風台南にて。

この仕事は、どんなふうに始まったんですか?
上坂あゆ美さんから直接ご連絡を頂きました。それまで面識はなかったんですが、SNSで写真を見て知ってくださっていて、声をかけて頂きました。
ロケーションはどうやって決まったんですか。
声をかけて頂いた段階で、どんなアーティスト写真にしたいか方向性やイメージが大まかにあって、それをもとに衣装やロケーションのアイデアについてやり取りしました。上坂さんはオーダーメイドのSINA SUIEN、僧侶の鵜飼さんは僧衣、というスタイリングが決まったので、並行して僕は京都のロケーションを色々調べて二人のスタイリングと合いそうな喫茶店と台湾料理店を見つけてアポ取りをしました。京都に前乗りして、手土産を持ってお店に挨拶に行きがてらロケハンもしましたね。
そこまでやるんですね。
お店の人とも事前に会って少し会話しておきたかったのと、当日は貸切ではなかったので慌てないように一応確認しておこうと思って。そのあたりはディレクター仕事みたいな感じもちょっとありますね。あと、さすがに当日は一人で全部やりきるのは厳しいだろうと思って、京都の友人にサポートをお願いしました。そのおかげで撮影に集中できました。
これはストロボ使ってますね。
二人のポッドキャストを聴いたらすごく面白くて、上坂さんも鵜飼さんもキャラクターが立っている印象があったので、写真でその感じが出るといいなと思ったんですよね。それまでストロボはほとんど使ってなかったんですけど、お店の照明も限られていたし「ストロボ使ってみようかな」とトライしてみました。ぶっつけ本番でしたけどめちゃくちゃいい仕上がりでした。自分で「メインは絶対これがいい!」と思っていたカットを二人も選んでくれたので嬉しかったです。
これは代表作と呼んでいいんじゃないですか。
そうですね。自分でもすごく大好きな写真だし、いろんな人に「あの写真良いね」と言ってもらえることも多いので、これは代表作と言いたい気持ちです。
シャッターを切る、その前に
2つのお仕事に共通しているのは、撮る前の段階にものすごくエネルギーを使っていることですね。
そこは自分なりに密かに大事にしているところですね。現場で全力でシャッターを押すというのは、もちろん当たり前にやりますけど、それ以外の部分も全力でやりたいと思っています。ただ、「緻密に段取りしたい」とか「準備を尽くしたい」とはちょっと違うんです。
違う、というと?
生活の設計の写真で言えば、バンドと仲の良い友達がいい感じの車を出してくれる、その関係性含めていいなと思って、それを大事にしたいので「車とTシャツを撮る」っていう軸だけ決めておいて、それ以外は現場判断です。
撮影に関わる人や物事の繋がりや良い部分を一番大事にしつつ、事前に色々考えたり調べたりインプットはするんですが、現場では計画通りに全部やろうとしないで、その場のいい判断ができるように心がけています。
フィルムであることについて
仕事の現場でフィルムを使い続けている理由を、改めて聞かせてください。
まず、フィルムで撮った写真がシンプルに好き。理屈ではないんですが、自分にしっくりきます。それが一番大きいです。もう一つは、自分の写真の原体験がフィルムなんです。デジタルカメラが普及する前に写真に触れ始めたということもあって、写真を撮るということがフィルムから始まったんです。フィルムは「懐かしい」「エモい」と言われているのを耳にするけど、僕自身はフィルムをレトロだとはあまり思わないんです。そんなに深くは考えてないですが、生まれ育った場所への愛着みたいなものかもしれません。
現像を待っている時間って、どんな感覚ですか?
現像が上がるまでの時間は、早く見たいなって楽しみにしている時間ですかね。手応えがあれば「絶対良く上がってくるはず」とイメージが膨らむし、「あれどうだったかな」って心配な時間になることもあります。いずれにしても仕上がりのことを考えてます。
枚数が限られていることについては。
物理的に枚数の上限があるという制約があるのは、自分にとってすごくいいことだと思っています。ずっと撮っちゃうタイプなので、制約があることはいい緊張感になっている気がします。
写真を撮るということ
写真に対する考え方は、これまでどう変わってきましたか?
変遷はそんなになくて、割と一貫しているかもしれません。特にメッセージもないし、自分の写真を見た人に影響を与えたいということもありません。でも、自分の手を離れてどこかに届くといいなっていう感覚はあります。希望みたいなものですかね。
自分にも忘れられない一枚があって、その写真を見た時の衝撃を未だに覚えてます。うまく言語化できないけど、自分の中ではそこから写真のことが始まった気がします。
これから
今後、写真で残していきたいテーマはありますか?
地元の群馬を撮りたいですね。たまに帰るんですけど、車を使わせてもらえなくて自由に動けないから、最近の群馬がわかんなくなっちゃって。自分のことがよくわからなくなってきた。だから撮りたいなっていう気持ちがある。
あとは展示をやりたい。ちゃんと撮り溜めて、一番新しい自分の写真で。過去の作品を並べるんじゃなくて、今年の新作で。そうじゃないと意味がないかなと思っています。
Profile

細谷謙介 Kensuke Hosoya
群馬県高崎市生まれ。 東京を拠点に、雑誌、WEB、アーティスト写真などの撮影を中心に活動。 普段は映画関連の仕事に携わる。
Instagram:@kensukehosoya
主な使用機材
カメラ PENTAX67Ⅱ , Canon EOS-1V , EOS5
フィルム Kodak Portra 400 , Kodak Portra160
Profile
細谷謙介 Kensuke Hosoya
群馬県高崎市生まれ、東京在住。ディレクターとして映画関連の仕事に携わりながら、フォトグラファーとして雑誌、ウェブメディア、アーティスト写真などを手がける。洗練されていながらもどこかノスタルジックな作風で多くの人から支持されている。
Equipment
-
Camera
PENTAX 67II / Nikon F3 / Canon EOS 5D Mark IV
-
Film
Kodak Portra 400 ほか
SNS
-
Instagram
@kensukehosoya -
Web
kensukehosoya.jp